野獣死すべし (大藪春彦作、1958年発表)
一昔前の男の憧れが良く分かる作品である。
酒と煙草と女を貪り食い、銃を乱射して公権力に逆らって悪事の限りを付くし、最後に華々しく散ると思いきや、実はチャッカリ生き延びて後の世にスーパーマンとして大活躍する。
半島出身の作者の作風が、安保団塊世代の思想と共鳴したのは、運命ではなく必然だったかもしれない。
しかし本作が今日スポットライトを当てられることはないと思われる。
なぜならこれは今の世の中、どの世代からも受け入れられないからである。
かつてこの憧れに焦がれた世代は、遊びつくして飽きたのか、こういうものから目を逸らそうとしているし、若い世代にはただのテロ行為と切り捨てられるからだ。
この憧れは現在、ライトノベルの世界で辛うじて息づいているが、専ら異世界で行われ、しかも権力側について活躍することが多い。
時代は大きく変わったのである。